「はぁ、またコピー機までいかないといけない…。」
倉庫業の事務所にいた頃の、私の口癖でした。
私の席は、コピー機から一番遠い場所にあったんです。事務所の端っこ。窓側で景色は良かったのですが、コピー機まで歩く距離は、ざっと十数メートル。しかも、使用頻度は社内でも上位でした。受注書、納品書、伝票の控え。1日に何往復もしていたと思います。
こんにちは、おかもち(48歳)です。
いろんな現場で20年。製造業の生産管理と営業を兼ねながら、現場の「モヤモヤ」を改善するヒントを発信しています。
気づく力編が完結し、今日から「考える力編」に入ります。
この記事を読めば、職場で「変えられないこと」に消耗する時間が減ります。
なぜなら、「変えられないこと」と「変えられること」の線引きが、自分の中ではっきりするから。
3つの実体験 ── コピー機の距離、机の上の配置、エクセル受注簿 ── を通して、考える力の最初の一歩を一緒に見ていきましょう。
コピー機の距離 ── 「変えられないこと」に消耗していた頃

「コピー機を動かしたい。」
「もしくは、自分の席を動かしたい。」
何度もそう思いました。
歩く距離だけの問題ではないんです。コピーを取りに行くたびに、目の前の作業が中断される。集中していた思考が、いったんリセットされてしまう。午後になると、ふくらはぎが張ってきて、なんとなくため息も増える。
でも、簡単じゃないんです。コピー機を動かすには、配線も、人の導線も、全部変える必要があります。事務所の大勢の協力も必要になる。自分のデスクを動かすにしても、隣の人の動線、書類棚の位置、共有スペースのバランス。すべてが連動していて、一つを動かせば全部が動いてしまう。
そこまで考えると、ある感情が湧いてきました。
これって、私のわがままなのかな。
そう思い始めると、もう何も言い出せない。「コピー機の位置を変えたいです」なんて、口に出した瞬間、空気が重くなる気がする。みんな、それぞれの場所で頑張って仕事をしている。その流れを乱してまで、私の都合を通してもいいのか。
結局、何も動かさず、モヤモヤだけが心に残ったまま、毎日が過ぎていきました。
そして、同じ状況になるたびに、また同じモヤモヤを繰り返す。1日に何往復もコピー機まで歩きながら、頭の中では「いつかなんとかしたい」と思い続ける。でも、いつかは来ない。
これが「変えられないこと」に執着していた頃の、私でした。
まず机の上から動かしてみた

ある時、ふと思い直したんです。
コピー機は、私一人では動かせない。
でも、自分の机の上なら、誰の許可も大きくは要らない。
事務所の大改造はできなくても、自分の半径1m以内なら、好きにできる。それなら、まずはそこから始めてみよう。そう決めて、机の上にあるものを全部、いったん下ろしてみました。
パソコン、使用頻度の高い書類、ペン、ホッチキス、印鑑、定規。普段当たり前に並んでいるものを、改めて並べ直すことにしたんです。
ポイントは「書類の流れ」でした。私の仕事は、受注した案件を入力し、作業し、最終的に納品まで管理する仕事。ということは、書類も「受注 → 完成」の順番に流れていきます。そこで、机の上も左から右へ、流れに沿って配置することにしました。
受注 → 未着手 → 入力済み → 作業中 → 完成納品待ち。
左端には受注書、その右に未着手の山、真ん中に入力済み、右側に作業中、一番右に完成・納品待ち。左から右へ、自然と書類が流れる。手の動きと、書類の動きが揃うように設計しました。
それから、しばらく経った頃。
ある日、私の机の前を通りかかった後輩が、こう言ったんです。
「これ、一番効率的な配置ですね。」
たった、それだけ。褒められたわけでも、上司に評価されたわけでもない。でも、その一言で十分でした。
自分の半径1m以内なら、誰の許可も大きくは要らない。小さな範囲を整えるだけで、こんなにも仕事が回りやすくなる。そして、それを誰かがちゃんと見てくれている。これが、私の最初の小さな成功体験になりました。
エクセル受注簿 ── 個人の工夫が、社内標準になった話

もう一つ、お話ししたいことがあります。
ある時期、エクセルで作られた受注簿を、前任者から引き継ぎました。
ところが、その受注簿には、明らかに必要な情報が足りていなかったんです。受注日は書いてある。納期も書いてある。でも、「今、その案件がどの段階にあるのか」がパッと見て分からない。顧客から「あの件、どうなってますか?」と電話がかかってきても、受注簿だけでは答えられない。
毎回、現場に確認して、担当者に聞いて、ようやく状況が分かる。受注簿があるのに、結局口頭確認が必要。これでは、何のための受注簿なのか分からない。
これは、変えられる。
そう判断しました。コピー機の位置は動かせなくても、エクセルのファイルなら、私の手元で動かせる。
私が本格的に受注簿を扱うようになってからは、必要な情報を全て一覧できる構造に作り変えました。受注日、納期、ステータス(未着手・作業中・完成・納品済み)、顧客情報、担当者、備考。列を整理し、入力ルールも統一しました。
これで、受注簿を見るだけで、誰でも現状が把握できる。電話がかかってきても、受注簿を開けば即答できる。
最初は、私が一人で使っていただけでした。でも、便利だと気づいた同僚が、同じフォーマットを使い始める。別の担当者も真似する。そして気づいたら、社内で同じ形式が回っていました。
その受注簿が、社内標準になっています。
個人の小さな工夫が、組織の仕組みに育った瞬間でした。誰かに指示されたわけでもなく、会議で決まったわけでもない。ただ、「便利だから使う」という自然な流れで、標準が生まれていったんです。
「言われたらやる側」から「言われなくても考える側」へ

正直に言いましょう。
諦めていた頃の私は、「言われたらやる側」でした。上司が「これをやれ」と言ったら、それをやる。納期が決まっていたら、それまでに仕上げる。それ以上のことは、考えない。
「変えられないこと」が多すぎて、考えるのを諦めていたのかもしれません。考えても、どうせ何も動かない。だったら、考えるだけ無駄。そんなふうに思っていました。
でも、今は違います。
気づいたことを、どう良い方向に持っていくか。今ある仕組みのうち、どこなら自分の手で動かせるか。言われなくても、自分から考えるようになったのです。
何が変わったのか、と考えると。
机の上から動かしてみた、その小さな成功体験。受注簿が社内標準になった、その実感。小さな一歩が、確かに何かを動かすという事実。これらが、私の「考える力」のスイッチを、静かに入れてくれたんだと思います。
大げさな転換点があったわけではありません。ただ、机の配置を変えただけ、エクセルの列を整えただけ。それでも、自分の中で何かが、確かに変わりました。
変えられないことを抱えこまない技術

今でも、コピー機の位置は変わっていません。
長い時間が経っても、事務所のレイアウトはほぼ当時のまま。私の席もコピー機からは遠いままです。
でも、もうそれで消耗することはなくなりました。
なぜか。それは、自分が動かせる範囲で、毎日少しずつ整えるようになったからです。机の上の配置。書類の流れ。エクセルの構造。共用スペースのちょっとした整理。朝のひと声。誰かの声を拾うこと。どれも、ささやかなことです。
でも、ささやかなことを積み重ねていると、不思議なことが起きました。
すべてを抱えることは、なくなりました。
以前は、変えられないコピー機の位置すら、自分一人で抱え込んでいました。誰にも言えず、ただモヤモヤを溜め込む日々。でも、今は違います。
変えられないことは、変えられない。それでいい。
変えられることは、変えられる。そこに集中する。
この線引きが、自分の中で、はっきりとできるようになりました。
これが「考える力」の最初の到達点だと、私は思っています。
変えられないことに執着している間は、答えは出ません。そして、答えが出ないものに、人は永遠に消耗します。でも、変えられることに集中すると、不思議と景色が変わるんです。今日できることが、少しずつ見えてくる。
📖 もう一歩深く学びたい方へ
7つの習慣 ── 主体的である(第1の習慣)
「変えられること」に集中する哲学を、もっと深く学びたい方へ。
7つの習慣の第1「主体的である」── 影響の輪に集中する考え方の源流です。
私が20年、何度も読み返している一冊を紹介しておきます。
次回から、考える力編②へ
シリーズ次章「考える力編②」では、小さなアイデアがどう大きな成果につながっていくのか、その仕組みを一緒に深めていきます。
机の上から始まった、私の小さな工夫。それがエクセルの受注簿につながり、社内標準にまで育った。こうした「小さな種が、大きな実になる」プロセスを、もう少し具体的に書いていく予定です。
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。
変えることができるのは、どこか?

最後に、問いを残します。
変えることができるのは、どこか?
あなたの今いる場所で、誰の許可も大きく要らずに動かせるものは、何ですか?机の上の鉛筆一本、付箋の位置、メモ帳の置き場所。何でも構いません。
その問いを自分に投げかけてみれば、見えてくる景色があるはずです。「変えられないこと」を眺めるのをやめて、「変えられること」を選ぶ。それが、考える力の最初の一歩です。
今日も、机の上から。


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