「もう、何件目の不良だよ…。」
そう、つぶやいた経験のある方も多いのではないでしょうか?
でも、心の中で何度つぶやいても、現場は変わりません。誰かに伝えて、動いてもらわなければ、不良は減らない。問題は ── どう伝えるか、です。
こんにちは、おかもち(48歳)です。
いろんな現場で20年。製造業の生産管理と営業を兼ねながら、現場の「モヤモヤ」を改善するヒントを発信しています。
前回の伝える力編④では「事実と気持ちを分けて冷静に伝える」を書きました。
今日は、その次のステップ ── 数字と事例で、人を動かす伝え方です。
この記事を読めば、「結構」「なんとなく」を「○件」「○分」に置き換えて、相手が確実に動く伝え方が手に入ります。
なぜなら、私自身が現場で数字に救われてきた経験があるから。「今月もう5件目!」で社長を動かした話・「結構大変」で何も変わらなかった失敗・「ざっくり3時間」で後輩を冷静化した話 ── 3つの実体験を通して、伝える力の次の一歩を一緒に見ていきましょう。
「なんとなく」では、人は動かない

業務改善で何かを提案する時、つい曖昧な言葉を使ってしまうことがあります。
「ちょっと多いんです」
「結構かかってます」
「最近よく失敗します」
これらの言葉、相手に届いていますか?
残念ながら、ほとんどの場合、届きません。聞いた側は「ふーん、大変だね」で終わり。なぜか。**頭の中に絵が描けない**からです。
「ちょっと多い」── どれくらい多いのか分からない。
「結構かかる」── 1時間なのか、5時間なのか分からない。
「最近よく失敗」── 月1件なのか、毎日なのか分からない。
こうなると、相手は判断できません。判断できなければ、動けません。
「なんとなく」では、人は動かないのです。
そこで効くのが、**数字**と**事例**。今日は、私が現場で実際に経験した「数字の使い方の3つの工夫」をお話しします。
〈エピソード1〉「もう5件目です!」で社長を動かした話

最初の話は、私の生産管理での経験です。
その月、不良品が連続して発生していました。原因はいくつかあるけれど、根本的な品質管理体制に問題がある。何度か現場には言ってきたけれど、なかなか改善されない。
そして、その日 ── また不良品が見つかりました。出来上がった製品を納品のため梱包しようとしていた時に、製品の異常に気づいたんです。
その月、もう **5件目** でした。
私は、社長を現場に引っ張り出しました。そして、こう伝えました。
「社長!今月もう5件目です!」
これだけでは、まだ足りません。私は続けました。
- 「この製品のやり直しをするかどうかの判断」
- 「梱包用に準備したものを片付けて」
- 「製造の担当者に話をつけにいって」
- 「改めて製造スケジュールを計画して」
- 「お客様と納期の調整をして」
- 「── この不良の対応で、丸1日つぶれることになるんですよ」
- 「今月はもう5件目です」
数字+影響(丸1日つぶれる)+具体的な作業リスト。
これを目の前で並べました。
結果、何が起きたか。
社長から、品質管理の見直しを各部署で徹底するよう、指示が出されました。それまで「言っても変わらなかった」状況が、たった一回の伝え方で動いたんです。
「今月もう5件目です!」── 数字が社長を動かした。
もし「最近不良が増えてます」とだけ言っていたら、おそらく何も変わらなかったでしょう。きっと6件目、7件目と不良が発生していた。数字を入れて具体的に伝えなければ、組織は動かない。これが、私が学んだ大切な教訓です。
〈エピソード2〉「結構大変」では、何も変わらない話 ★失敗から学んだこと

次は、私の失敗談です。
製造業の現場では、営業・材料の調達・製造などで、縦割りになっていることがよくあります。それぞれが自分の業務に集中していて、隣の部署の事情はなかなか分からない。
そんな現場でよく聞くのが、こんな会話です。
製造の人が調達の人に向かって、
「あの材料、加工するの**結構大変**なのよ」。
でも、何が大変か伝わらない。調達の人は「ふーん」で終わり。次回も同じ材料が来る。
実は、私自身も同じことをしていました。
完成品を運び出すのに、製造に向かって「あれ、運び出すの**結構大変**なんよ」と言っていたんです。
結果は ── 製造側の対応は、何も変わりませんでした。
なぜか。「結構大変」では、相手の頭の中に絵が描けないから。
何が大変なのか、どうすれば楽になるのか、何が分からない。
後で気づきました。
私は、こう伝えるべきだったんです。
「運び出すのが大変だから、運びやすいように、完成したら**出口付近に3段積みで置いといて欲しい**んです。」
こう伝えていれば、製造側もすぐに理解できる。「3段積み」「出口付近」── 具体的な数字と場所があれば、頭の中で絵が描けるからです。
「結構大変」では、何も変わらないのです。
「結構」「ちょっと」「なんとなく」は、自分の感覚を相手にそのまま投げているだけ。受け取った相手は、何も判断できません。
〈エピソード3〉後輩の「やばいんです」を、ざっくり3時間で冷静化した話

3つ目は、後輩を冷静化した成功エピソードです。
倉庫業をしていた時のこと。急で大量の出荷依頼が来た日がありました。
後輩が、依頼書の束を抱えて、私のところへ駆け寄ってきました。
「**やばいんです**!」
これだけでは、私には状況が分かりません。何が、どれくらい、やばいのか。
正直に告白すると、私はごりごりの文系で、数字は苦手です。でも、こういう時こそ、数字が必要だと知っていました。
私は、後輩にこう指示しました。
「まず、1件がざっくり何分くらいでできるか、その束が何件あるか、数えてざっくり計算してから、また来て。」
後輩は、いったん戻りました。
しばらくして、計算結果を持って戻ってきました。
「ざっくり、**3時間**くらいです。」
これで、状況が一気にクリアになりました。
3時間。── どうやら、ギリギリ間に合いそうです。
そして、何より変わったのは、後輩自身でした。
「やばい」と言っていた本人が、「**なんとかなりそう**」という顔つきになって、作業に取り掛かったんです。
「ざっくり3時間」で、不安が消える。
もちろん私も、途中で何度か状況を確認しました。結果、無事に出荷に間に合わせることができました。
数字は、相手だけでなく **自分自身の不安も整理してくれる** 道具です。「やばい」を「○時間」に置き換えただけで、見える景色が変わる。これも、数字の大きな力です。
数字×事例=最強の説得セット

3つのエピソードに共通する考え方を整理します。
数字には、感情を超えた**インパクト**があります。「5件」「3時間」「3段積み」── 数字は誰が見ても同じように受け取れる、共通の言葉です。
そして、事例には**共感**を生む力があります。「社長を引っ張り出した話」「縦割りで失敗した話」── 具体的な場面が頭に浮かぶから、相手も自分ごととして受け取ってくれます。
数字×事例=最強の説得セット。
数字だけだと、冷たく感じることもあります。事例だけだと、感覚的になりがちです。両方を組み合わせると、論理と感情の両面から相手に届くんです。
数字が苦手でも大丈夫 ── ざっくりでいい

ここまで読んで、「数字って難しそう」と感じた方もいるかもしれません。
大丈夫です。完璧な統計じゃなくていい。
「**今月5件**の不良」
「**3段積み**で置いて」
「**ざっくり3時間**くらい」
こんなレベルで十分なんです。電卓レベルの計算で、十分効果があります。
私自身、ごりごりの文系で、数字には強くありません。でも、「何件」「何分」「何個」だけなら数えられる。それだけで、伝わり方は劇的に変わります。
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「定量化で説得する」ことの源流を、私が現場に置いて何度も読み返している一冊で学べます。
次回から、伝える力編⑥(完結編)へ
シリーズ次章「伝える力編⑥」は、ついに**完結編**です。伝える力編の総まとめとして、これまでの学びを統合する内容を予定しています。
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。
今日から「結構」を「○件」に置き換える
最後に、今日から実践できることを、一つだけ提案します。
今日、誰かに「**結構**」「**ちょっと**」「**なんとなく**」と言いそうになったら、立ち止まってみてください。
その「結構」を、「○件」「○分」「○%」に置き換えてみる。
「結構大変」→「3段積みで置いてほしい」
「ちょっと多い」→「先月の倍の量」
「なんとなく忙しい」→「1日30分の残業が続いてる」
たったそれだけで、相手の動き方は変わります。
まずは1日、1回でいい。
「結構」を「○件」に置き換える練習を、今日から始めてみませんか。
今日も、机の上から。
半径1m以内、1秒から、引き算から、流れから、他者から、目的から、相手から、見える化から、冷静さから、そして、数字から。


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