「やばいです…。」
若い頃の私が、先輩によく放っていた言葉です。
担当の作業が時間までに間に合いそうにない。焦る。けれど、口から出るのは「やばいです」の一言だけ。本当は、手を差し伸べてほしかった。「ちょっと手伝ってもらえませんか?」と言いたかった。なのに、出てきたのは「やばいです」。
こんにちは、おかもち(48歳)です。
いろんな現場で20年。製造業の生産管理と営業を兼ねながら、現場の「モヤモヤ」を改善するヒントを発信しています。
前章「考える力編」全6本にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
今日から、新章 ── 伝える力編に入ります。
考える力で気づいたアイデアも、誰かに伝わらなければ、現場は動きません。「言ったのに伝わらない」「提案しても通らない」── 多くの人が抱えるこのモヤモヤを、これから一緒に解消していきます。
この記事を読めば、相手の行動を変える「伝える目的」の決め方が手に入ります。
なぜなら、私自身が「伝わらなかった」3つの失敗を通して、目的を持つことの大切さに気づいた経験があるから。「やばいです」事件・検査室の改善提案・パートさんへの「丁寧に」── 3つの実体験と、目的別の5つの基本フレーズを通して、伝える力の最初の一歩を一緒に見ていきましょう。
「伝えたつもり」と「伝わった」は、別物

伝える、という言葉は、シンプルです。話す。書く。送る。── どれも「伝える」行為の一部です。
でも、考えてみてください。
あなたが「伝えた」と思ったあと、相手は本当に「伝わった」状態になっているでしょうか?
よくあるのが、こんな場面です。「このデータ、先月と比べて増えてるんです。」「ふーん…で?」──。
伝えた側は、「ちゃんと報告した」と思っている。でも、聞いた側は「で?何を求められてるの?」と困っている。
これが、「伝えたつもり」と「伝わった」は、別物という現実です。
そして、この「伝えたつもり」のまま終わってしまうと、何が起きるか。誰も動きません。状況は変わりません。提案も通りません。気づいた改善のアイデアは、宙に浮いたまま消えていきます。
原因は、たった一つ。**伝える目的の曖昧さ**です。
〈エピソード1〉「やばいです」だけでは、誰も動かない

冒頭で書いた話に戻ります。
若い頃の私は、本当によく「やばいです」と先輩に言っていました。納期が迫っている。作業が間に合わない。手がいっぱい。心はパニック。だから、口から出るのは「やばいです」だけ。
でも、ある日気づいたんです。
「やばいです」と言われても、先輩には何もできない。
先輩からすれば、「やばい」と言われても:
- 何がやばいのか分からない
- どれくらい間に合わないのか分からない
- 自分にどう動いてほしいのか分からない
結局、先輩は「大丈夫?」と気にしてくれるけれど、具体的なアクションには繋がらない。私は「やばい」と言ったことで満足してしまい、実際の状況は何も改善しない。そんな悪循環でした。
本当に欲しかったのは、「手を差し伸べてほしい」という協力依頼でした。なら、こう言うべきだったんです。
「あと2時間で、伝票処理が30件あります。1人では間に合いそうにないので、10件だけ手伝っていただけませんか?」
これなら、先輩は「ああ、それなら10件分手伝うよ」と動けます。
状況も、必要な助けの量も、依頼内容も、明確だからです。
「やばいです」だけでは、誰も動かない。
本音と言葉が、ずれていたんです。「協力してほしい」という本当の目的を、私自身が言葉にしていなかった。これが、私の最初の失敗でした。
〈エピソード2〉検査室の改善提案 ──「で、どうすればいいの?」

2つ目の話は、もう少し後の経験です。
ある現場で、検査室の物の流れを変えたいと考えていました。当時の検査室は、検査前と検査後の品物がごちゃ混ぜ。「入口 → 検査台 → 出口」というシンプルな流れにすれば、混乱がなくなる。そう確信していました。
意気込んで、改善提案を出しました。「検査室を、入口 → 検査 → 出口の一方通行にしたいです。」
周りの反応は ── 「で、どうすればいいの?」
正直、ショックでした。こんなに分かりやすい提案なのに、なぜ伝わらないんだろう?
後で気づいたのは、こういうことです。「入口 → 検査 → 出口の流れにしたい」と思っているのは、私だけだった。他の人は、今まで通りのやり方が普通だと思っている。だから、いきなり「流れを変えたい」と言われても、何のことか分からない。
必要だったのは、**順序だてたストーリー**でした。
- 「今、検査室は前と後の品物が混ざっていますよね」(現状認識)
- 「これが、確認作業を増やしている原因なんです」(問題の特定)
- 「まず、入口付近の整理整頓から始めませんか?」(具体的な第一歩)
- 「そのあと、検査台の位置を見直して…」(段階的な手順)
- 「最終的に、入口 → 検査 → 出口の流れになります」(ゴール)
こう伝えていれば、相手は「あ、なるほど」とついてこられたはずです。
結論だけを伝えても、聞き手の頭の中には「絵」が描かれません。順序だててストーリーを伝えるべきだったのです。
これは、私が長く後悔した、大切な学びです。
〈エピソード3〉「丁寧に」だけでは、伝わらない ★失敗談

3つ目は、少し前の話です。
パートさんに作業指示を出すとき、私はこう伝えました。「間違えないよう、丁寧にお願いします。」
シンプル。短い。優しい言い方。
これで伝わるはず、と思っていました。
ところが、パートさんは早く作業を進めようと、一生懸命でした。手を動かし、目を凝らし、休む間もなく作業を進める。「丁寧に」と言われたから、神経を尖らせて頑張っている。
でも、私の本当の意図は、違ったんです。
その日は、時間に十分余裕がありました。だから「**慌てず**、丁寧に」と伝えたかった。ペースを落として、深呼吸しながらでいいから、確実にやってほしかった。
でも「丁寧に」の一言では、その意図は伝わりません。パートさんからすると、「丁寧に=慎重に=でも早く」と解釈してしまう。私と相手の頭の中の絵が、全然違っていたんです。
あとで後悔しました。こう伝えるべきだったと。
- 「今日は、時間に余裕があります」(時間の状況)
- 「1時間あたり、これくらいのペースで大丈夫です」(具体的なペース)
- 「手順は、A → B → Cの順で確認しながらお願いします」(具体的な手順)
- 「慌てず、確実にお願いします」(意図)
ここまで伝えていれば、パートさんも安心して、本当の意味で「丁寧に」作業できたはずです。
「丁寧に」だけでは、伝わらない。
言葉は短い方がいい、と思いがちです。でも、相手の頭の中に絵が描けるくらい具体的でないと、結局伝わらない。これが、私の3つ目の失敗でした。
伝える前の「5秒の思考」

3つの失敗から、私が学んだのは、たった一つのシンプルなことです。
伝える前に、5秒だけ立ち止まって考える。
考える内容は、これです。
- なぜ伝えるのか?
- どう動いてほしいのか?
- 何が必要なのか?
たった3つの問い。たった5秒。でも、これを意識するだけで、口から出る言葉が変わります。
「やばいです」が、「10件手伝ってほしい」になる。
「入口 → 検査 → 出口にしたい」が、「まず入口の整理から始めませんか?」になる。
「丁寧に」が、「時間に余裕があるので、このペースで確認しながら」になる。
伝える前の、たった5秒の思考が、相手の行動を変えます。
目的別 5つの基本フレーズ

「5秒の思考」を、もっと簡単に実践する方法があります。
伝える目的を、**5つの型**で考えるんです。
| 目的 | フレーズ例 |
|---|---|
| ① 状況共有 | 「~の状況です」 |
| ② 判断を仰ぐ | 「~について、どう思われますか?」 |
| ③ 協力依頼 | 「~のため、助けていただけませんか?」 |
| ④ 優先調整 | 「~が重なっていて、どちらを優先すべきでしょうか?」 |
| ⑤ 改善提案 | 「~をこう変えれば、もっとスムーズになると思います」 |
自分が今、5つのうちのどれを伝えたいのか。それを最初に決めるだけで、言葉は自然と整います。
「やばいです」は、本当は「③ 協力依頼」でした。
検査室の提案は、「⑤ 改善提案」だったけれど、ストーリーが足りなかった。
パートさんへの指示は、「① 状況共有 + ⑤ 改善提案(ペースの提案)」が混ざっていました。
目的が分かれば、フレーズは選べます。
フレーズを選べれば、相手の頭の中に絵が描けます。
📖 もう一歩深く学びたい方へ
7つの習慣 ── まず理解に徹し、そして理解される(第5の習慣)
「伝える前に、相手を理解する」哲学を、もっと深く学びたい方へ。
7つの習慣の第5「まず理解に徹し、そして理解される」── 伝える力の源流がここにあります。
私が20年、何度も読み返している一冊を紹介しておきます。
次回から、伝える力編②へ
シリーズ次章「伝える力編②」では、もう一歩深い「相手目線の伝え方」をテーマに書いていきます。
今日の話が「伝える目的を決める」だとすれば、次回は「**相手に届く言葉の選び方**」。
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。
自分は何のために、これを伝えようとしているのか?
最後に、私の本音を一つ。
自分は何のために、これを伝えようとしているのか。
この問いを、伝える前にたった5秒だけ考えてみてください。それだけで、相手の行動は変わり始めます。
「やばいです」を、「10件手伝ってほしい」に変える。
それだけで、現場は動き出します。
今日も、机の上から。
半径1m以内、1秒から、引き算から、流れから、他者から、そして、目的から。
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